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広島高等裁判所岡山支部 昭和63年(ネ)83号 判決 1991年8月29日

控訴人

国鉄労働組合岡山地方本部

右代表者執行委員長

柴田敏夫

右訴訟代理人弁護士

浦部信児

被控訴人

小澤敬三

被控訴人

梶原昭博

被控訴人

田野正身

被控訴人

岡功郎

右被控訴人四名訴訟代理人弁護士

松岡一章

右訴訟復代理人弁護士

河合秀直

右当事者間の損害賠償請求控訴事件につき、当裁判所は、次のとおり判決する。

主文

本件各控訴を棄却する。

控訴費用は、控訴人の負担とする。

事実

一  控訴代理人は、「1 原判決を取り消す。2 被控訴人らは控訴人に対し連帯して金一〇〇万円及びこれに対する昭和六一年一〇月二一日から支払済みに至るまで年五分の割合による金員を支払え。3 訴訟費用は、第一、二審とも被控訴人らの負担とする。」との判決並びに2につき仮執行宣言を求め、被控訴人ら訴訟代理人は、主文同旨の判決を求めた。

二  当事者の主張は、次のとおり付加するほかは、原判決事実摘示と同一であるから、これを引用する。

1  控訴人の主張

施設管理権は、憲法上の基本的人権の一つである言論、表現の自由までも制限しうるものではない。両者は、次元を異にしており、前者が後者を規律抑制するというようなことは許されない事柄である。控訴人の分会発行の本件掲示文書は、分会の機関紙であり、控訴人組合の団結権を具現し、また言論、表現の自由を表現するもので、憲法二八条、二一条に由来するものである。被控訴人らの本件掲示文書の撤去行為は、これらの権利を侵害するものである。原判決は、言論、表現の自由との関係についてはなんらの言及をすることなく、判断を遺脱している。

次に、自力救済は、原則として許されるべきではなく、事柄が明白かつ現在の差し迫まった危険を回避する必要がある場合以外は、司法の判断に委ねられるべきである。従って、本件においても、原状回復撤去命令をするにとどめるべきものである。

2  被控訴人の主張

右1の主張は争う。

三  証拠は、原審及び当審における各書証目録及び各証人等目録の記載のとおりであるから、これを引用する(略)。

理由

一  当裁判所は、控訴人の請求は理由がないから、失当としてこれを棄却すべきものと判断する。

その理由は、次のとおり訂正、付加するほかは、原判決の理由と同一であるから、これを引用する。

1  原判決一一枚目表一二行目「その内容」(本誌五一九号<以下同じ>96頁2段1行目)から同裏一行目「明らかであるから、」(96頁2段3行目)までを「右記載内容が真実である場合は問題が別であるが、真実でない場合には中司本人やその遺族の名誉をき損し、かつ、国鉄の信用を傷つけるものというべきところ、右記載内容が真実であることを肯定するに足りる証拠はないから、結局、本件掲示文書は真実でないものとして個人をひぼうし、かつ、国鉄の名誉を傷つけるものというほかなく、」と改め、同二行目の末尾(96頁2段5行目)に「もっとも、本件掲示文書が真実であると信ずべき相当の理由に基づいてなされたものである場合には、その作成者らが不法行為責任を問われることはないが、そうだからといって、本件掲示文書が個人をひぼうし、かつ、国鉄の信用を傷つけるものでなくなるものではありえないし、しかも、本件掲示文書が真実であると信ずべき相当の理由に基づいてなされたことを認めるに足りる証拠もない。」を、一二枚目表一〇行目「本件掲示文書は、」(96頁3段3行目)の次に「個人をひぼうし、かつ、」を各加える。

2  控訴人は、施設管理権をもって言論、表現の自由を規律抑制することは許されない、被控訴人の本件掲示文書の撤去行為は、控訴人組合の団結権及び言論表現の自由の侵害である、原判決は、言論、表現の自由に言及することなく判断を遺脱した、また、自力救済をすべき事案ではなく許されない等の主張をするが、原判決認定の事実関係のもとにおいて、本件掲示文書を撤去したことが、控訴人組合の団結権及び言論表現の自由を侵害したり、自力救済が認められない場合であったとはいえないし、原判決は、言論、表現の自由についても言及しており所論の判断の遺脱はない。

3  そして、当審における全証拠をもってしても、原判決の認定を左右するに足りない。

二  そうすると原判決は相当であって、控訴人の本件控訴は理由がないからこれを棄却することとし、控訴費用の負担につき民訴法九五条、八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 高山健三 裁判官 相良甲子彦 裁判官 渡邊雅文)

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